レトロニムの例とパターン

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レトロニムとは何か?

こんにちはRenです。今日は「レトロニム」と呼ばれる興味深い言葉を紹介しますね。

レトロニムってなに?聞いたことないよ、と思った人でも、普段の生活の中で自分でも意識せずにそのレトロニムを使っていたりしますよ。

最初に言葉の意味を説明すると、レトロニムとは、ものごとが進化発展した結果、新しくできた同種のものとの区別のために、元々あったものに付けられた新しい名前のことをいいます。

ちょっと難しいですか?

でも例を挙げればすぐ理解できます。身近な例でいうとこれ。

ガラケー
ガラケー

「ガラケー」がまさにレトロニムなんです。

ここ10年くらいの流れを追えば、ガラケーはもともと携帯電話(またはケータイ)と呼ばれていたものが、あとに出てきたスマホとの区別をつける必要が出てきたことによって、新しくついた名前でしたよね。

そんなふうにレトロニムは生まれます。

「ガラケー」は当初はスマートフォンと国内向けに進化してきた国産携帯電話を比較する文脈での、いくぶん揶揄の入った呼び方でしたが、現在では従来型の形式の携帯電話を指す言葉として一般的に使われています。

 

ではレトロニムにはほかにどんなものがあるのか、そのいろんなパターンを見ていくことにしましょう。

ここでは便宜的にカテゴリに分けていますが、うまく区分できない言葉や複数のパターンにまたがっていると思われる言葉もあるので、適当にまとめて紹介していきます。

 

形態・形状のバリエーションから生まれたレトロニム

まず先ほどのガラケーがそうですね。

デスクトップパソコン
デスクトップパソコン

「デスクトップパソコン」もレトロニム。

世界初のノートパソコンは東芝が1989年に出したDynabook J-3100SSだそうです。

それ以前の個人用のパソコンは机の上に置いて使うのが普通でしたが、新しいノートパソコンと区別する必要から、デスクトップパソコンという言葉が誕生しました。

 


透明コンタクト

カラコンが出てきたあとでは、それと区別するために従来のコンタクトレンズを透明コンタクトと呼んでいますよね。

度なしレンズや伊達メガネに対して度入りのレンズ度付き眼鏡と呼んだりするのもレトロニムっぽいですね。

 


ホットコーヒー

日本でアイスコーヒーが一般的になったのは1970年代。それと区別するためのホットコーヒーの呼び名も、いまでは定着しています。

ホットココアも、あえて冷たくしたアイスココアと区別するためのレトロニムですね。

 


食パン

食パンは菓子パン出現後のレトロニムであるという説と、美術のデッサンで線を消す消しパンと区別するためのレトロニムだという説があります。

現在では一般的には菓子パンや調理パン、それにその他のプレーンなパンと区別するために使われていますね。

 


普通のお弁当

みなさんはこの「普通のお弁当」って、いったい何のレトロニムだと思いますか?

身近に幼稚園のお子さんがいる人ならわかるかも…。

そう、キャラ弁のあとにできた、まさに普通のお弁当のレトロニムなんです。

インスタグラムにも#普通のお弁当#キャラ弁じゃないのハッシュタグがありますよ。

まさにレトロニム界の新語。新しいレトロニムも続々出てきてるんですね。

 


固定電話

固定電話やダイヤル電話も、携帯電話やプッシュホン以後のレトロニムです。

 


モノクロ写真

白黒テレビもカラー出現後の言葉ですよね。トーキー以降のサイレント映画もそうです。

 


長傘

これは折り畳み傘と区別するためのレトロニムです。

 


コモンメタル

これは広く定着しているかどうか微妙ですが、レアメタルに対応する形でコモンメタルという呼び方があるそうです。

鉄や金銀などの昔から知られている一般的な金属をそう呼びます。まあ直接の呼び名というよりは、あとでできた分類になるでしょうか?

メタルで連想したんですけど、音楽の世界では、レトロニムってたくさんありそうじゃないですか?

クラシック自体がヘンデルやモーツァルトやベートーヴェンの時代には全然クラシックではなかったわけで、○○派なんてのもあとからつく呼び名でしょうし、スタンダードジャズやJ-POPもたぶんそうですよね。

それぞれの細かい音楽ジャンルの中でも、日々レトロニムが生まれていることと思います。有名なところではアルゼンチン・タンゴとかとかデトロイト・テクノとかがそうなのかな?

 

ものごとのバリエーションの増加や、概念の拡大から生まれたレトロニムはほかにもあります。それぞれどんな言葉と対比されて生まれた言葉か当ててみてください。

  • 純喫茶
  • 正社員
  • 漢方医学
  • 在来線
  • 鈍行
  • 蒸気機関車
  • 白熱電球
  • 異性愛
  • 堅焼き八ツ橋

レトロゲーム、レガシーコード、トラディショナルタトゥー、オーセンティックスカ、クラシックカー、旧甲州街道のように、頭に「旧来の」を示す語をつける方法で古いほうの物事を表すようになったパターンもありますね。

ミスドのオールドファッションなんかもそうなんでしょうか???

 

電化で生まれたレトロニム

それまで手作業だった仕事が電気の力でできるようになっていく過程で、以前のものごとには新しい呼び名が与えられていきました。

そんなレトロニムをいくつか見てみましょう。


足踏み(手回し)式ミシン


手動ポンプ


ハンドミキサー(泡立て器)


アコースティックギター


ウッドベース

ハンドドリル、手動洗濯機、ワイヤードリモコンも同様の過程で生まれたレトロニムですね。

 

デジタル化で生まれたレトロニム

このパターンはたくさんあります。

アナログ○○と呼ばれているものの多くがそうなんじゃないでしょうか。

アナログウォッチ、アナログ放送、アナログチューナー、アナログレコード、アナログゲームなどいろいろありますね。


フィルムカメラ

デジタルカメラの登場後の従来型のカメラを指すレトロニムです。光学ズームもデジタルズーム登場後のレトロニムですよね。

 


物理ボタン

アマゾンダッシュボタンのことをこう表現しているニュース記事がありました。

PCやスマホの画面上のGUIではない、指で押す押しボタンのことを物理ボタンと呼ぶようになったんですね。

 


リアル店舗

ネットショップではない、物理的な実際のお店のことですね。

最近はゲームの中で獲得したアイテムや仮想通貨を実際のお金で売り買いすることを、リアルマネートレードと言っていますよね。

ちなみにこのリアルマネーという言葉は僕の周辺に限れば、もっと広く普及している電子マネーに対比されて使われるよりも、もっぱらゲーム内財貨との対比で使われている印象です。

あとネット上のつながりでない友達をリアルの友達と言ったりもしますね。

紙の本、有線LAN、それにオフ会なんてのも、デジタル化時代のレトロニムです。

でもオフラインのことをネット出現以前はなんと呼んでいたのでしたっけ?

素?普通?日常?…これはレトロニムではなくて新規の概念かもしれないですね。

 

横取り感つよめのレトロニム

なかには新しいほうに完全に概念の中心が移った感じの言葉もあります。

元々の名前を取られちゃった感のあるレトロニムです。


レッサーパンダ

元々はこのレッサーパンダが「パンダ」だったそうですよ。僕たちが今パンダと言われてイメージするのは、あの白と黒のパンダのほうですよね。

そのジャイアントパンダが発見されたあとで、彼らはレッサーパンダ、あるいはレッドパンダと呼ばれるようになりました。

それにしてもlesserとはちょっとかわいそう。





画像をおまけしてみました。がんばれ。かわいいですよね。笹はこっちも食うらしい。

 


ホットチョコレート

元々はこちらが「チョコレート」の本家です。固形のチョコが出たあとで液体のものをこう呼ぶようになりました。

 


水餃子

これも焼き餃子と区別するための日本語のレトロニム。中国では餃子と言えばこの水餃子だそうです。

ほかにもインドカレーなんてわざわざ言うのも、日本風にアレンジされたカレーが一般的に普及したあとに本場のカレーを指し示すためのレトロニムですよね。料理の世界もレトロニム多そうです。

海外から来たもののアレンジが広く定着した料理で、もとになったものをピンポイントで示そうとすると、新しい名前が必要になるんですね。

 

レトロニムのその他のパターン

「人工・加工・養殖」に対比するためのレトロニム


本革(人工皮革)、醸造酢(合成酢)、本みりん(みりん風調味料)、生ジュース、天然水、天然芝、天然うなぎ、天然ダイヤモンド、天然温泉、天然ボケ(?)など

 

「海外」に対比するレトロニム

日本酒、日本画、本わさび、邦楽など

 

「録画・録音・記録・複製」に対比するレトロニム


生(ライブ)放送、生中継、生演奏、生写真など

 

これはレトロニムか?

初代マン

ウルトラマンの最初の主人公であるウルトラマンのことを、シリーズ化されたあとにどう呼ぶかでは議論があったようです。

でも初代マンと言えば今でも最初のウルトラマンを指しているとわかりますよね。これもレトロニムだと思います。

仮面ライダー1号

仮面ライダー1号は放送中は単に仮面ライダーと呼ばれていて、2号が出てきてから1号と呼ばれるようになった経緯があります。なのでこれもレトロニムと言えるでしょう。

バカボンのパパ

ではバカボンのパパはどうなんでしょうか?

詳細には調べていませんが、パパの登場は息子のバカボンと同時期だと思うので、元々は別の名前で呼ばれていたということもなさそう。サリーちゃんのパパも同じでこれはレトロニムではなくて、単純にキャラの名前ですよね。

でももう少し深く、天才バカボンの世界の中だけで考えれば、パパ(?)→バカボン誕生→バカボンのパパ襲名という順序が想像できるので、その世界の中ではレトロニムと言えそうにも思えますが…。

となれば同様の例で、現実世界で子どもを保育園に入れた親が「○○ちゃんのパパ、ママ」と呼ばれるようになるのも、固有名詞ではありませんがレトロニム的な現象に見えてきます。でもやっぱり、「同種の新しい存在との区別」という定義にはすんなり当てはまりませんね。

生チョコレート

なんとなくレトロニムくさい気がしましたが、生チョコレートはチョコレートに生クリームなどを混ぜ込むことで柔らかい触感にしたものだそうです。

ということは加工したあとで生チョコレートを名乗っているわけなので、これはレトロニムではありません。

座布団

これが調べていて微妙だった言葉です。これはレトロニムですか?

「布団」の由来は、あくまでウィキペディア情報ですが以下の通りです。

元々蒲団と書かれ、蒲でできた円い敷物に由来する。この「団」は丸いという意味である。現在は軟らかい材質を用いるようになったため、布団と書かれるのが普通である。

これに従えば座布団状のものを元々は蒲団と呼んでいたわけなので、レトロニムのような気もしますがどうでしょうか。古典落語でも、座布団のことを単に布団と呼ぶ場面が出てきます。

 

レトロニムのいろいろまとめ

今日はレトロニムという言葉を紹介しました。たくさんのレトロニムを見てきましたが、レトロニムは新しい物事の出現から少し遅れて、前のものを特に指し示す必要に応じて、人々が作り出してきた言葉です。

そんなわけで、イノベーターたちによる正式の名づけよりも、大衆の口語表現から普及していく言葉が多いのがレトロニムの特徴のように感じます。

回らないお寿司は回転ずしとの対比で、自毛(じげと読む場合)はかつらやウィッグとの対比で、カジュアルな口語として生まれてきています。上で紹介している紙の本なども率直な口語ですよね。


地上アイドルという言葉も、現れてきたのはここ数年のことでしょう。

これからも技術の進歩や環境の変化とともに、どんどん新しいレトロニムが出現してきます。

あなたの普段の会話の中やSNSでも、意識していれば新語レトロニムが見つかるかもしれませんね。